座長からのメッセージ
座長 小川 千登世
小児がんはずいぶん治るようになってきました。けれども今でも日本で1年に500人以上の子どもが小児がんで亡くなっています。その中には、海外で使える薬が日本で使えるようになるのを家族みんなで指折り数えて待っていたのに、間に合わず亡くなった患者さんもいます。
最近ではがん遺伝子パネル検査が保険診療でできるようになり、分子標的薬などでの治療を探すたくさんの小児がん患者さんもこの検査を受け、この検査の結果で、効果があるかもしれない、という薬の候補がわかるようになってきました。これまでの薬は効かなかったのに、推奨された飲み薬だけの治療を受けてがんがすべて消えた患者さんもいます。
しかし、効くかもしれないとされる薬のほとんどが今の日本では保険診療で使うことができません。治験などの臨床試験に参加することで使用することができる場合もありますが、その機会もごく限られています。
一人でも多くの子どもたちとその家族が元気になれるように、新しい薬を海外に遅れることなく使えるよう、また、国内で開発された薬は世界で一番に日本で使えるようにするために、薬剤開発促進WGでは患者さんやご家族、製薬企業も含めた社会全体と協力しながら、ドラッグラグの解消、国内での小児がんの薬の開発促進を目指します。
小児がんの薬剤開発の現状
ここ数十年の医療の進歩で血液がんを中心に現在では約7割~8割が治るようになりましたが、固形がんについては欧米に比べ小児がんの新薬開発が進んでいないのが現状です。2010-2018年に国内で小児がんに対して承認されている18品目は古い薬剤の適応拡大である一方で、米国で承認された27品目のほとんどが新薬となっています。
小児がんの新薬開発が進まない理由として、① 市場規模が小さく、開発コストや法的義務(安定的供給・安全性監視活動など)の負担が大きい、② 第Ⅰ相臨床試験施設・小児治験に精通した施設、医師、CRC(臨床試験コーディネーター)の不足など小児治験を実施する環境が不十分、③ 医師主導治験で開発しようとしても、公的予算・研究費の確保が困難、④ 対象患者が少なく被験者の確保も難しいため、臨床試験の実施が困難 などが挙げられます。
欧米も10、20年前までは日本と同様の状況でしたが、アメリカでは2003年にPediatric Research Equity Actが成立し、企業に対して成人対象の第Ⅱ相試験終了までに小児臨床試験計画の提出が義務化されました。欧州でも、2007年にPediatric Regulationが成立し、企業に対して成人対象の第Ⅰ相試験終了までに小児開発計画の提出を義務化すると同時に、新薬/特許期間中の医薬品:6か月の特許補完証明期間延長、オーファン指定医薬品について2年間の市場独占期間追加などの企業へのインセンティブを付与しています。さらに、2017年成立、2020年施行の「Research to Accelerate Cures and Equity(RACE)for Children Act」では小児がんのための医薬品開発に関する記述も追加、既法が修正され、分子標的薬などの成人と異なる適応症の小児がんに対する開発促進をも視野に入れたものとなっています。この結果、アメリカで小児がんに薬事承認された薬の数は2010‐2016年には4であったのに、RACE法成立の2017年以降は27と飛躍的に増加しました。この27のうち、日本でも承認されている薬はわずかに6剤です。
本国民会議では、これまで学会などでも議論されてきた小児がんの薬剤開発推進のため、企業での薬剤開発が可能となるようなインセンティブの導入などの政策提言を目指し、政策決定者を含む国民に働きかけていきます。
薬剤開発促進ワーキンググループ メンバー
座 長 | 小川 千登世 | 国立がん研究センター中央病院小児腫瘍科科長 / 特定非営利活動法人日本小児がん研究グループ理事 / 日本小児血液・がん学会理事 |
荒川 歩 | 国立がん研究センター中央病院小児腫瘍科 医長 | |
富澤 大輔 | 国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科 診療部長 | |
加藤 格 | 京都大学医学部附属病院小児科 助教/病棟医長 | |
中野 嘉子 | 東京大学医学部附属病院 小児科 | |
浦尻 みゆき | 小児がん患者会ネットワーク運営委員 神経芽腫の会共同代表 | |
鈴木 隆行 | 患者家族(がんの子どもを守る会会員) |